「この」を言い換えて文章を磨く!プロが教えるシーン別表現

「この」の言い換えとして、ビジネスメールや文書なら「本(ほん)」「当(とう)」「こちらの」、論文やレポートなら「上記(じょうき)」「前述(ぜんじゅつ)」などが使えます。

文章を書いているとき、無意識に「この」「この」「この」と連呼してしまうことはありませんか。指示語は便利ですが、多用しすぎると文章が子どもっぽく見えたり、「どれを指しているのか分からない」と読み手を迷わせたりする原因になります。

指し示す対象や状況に合わせて「この」を適切に着替えるだけで、文章の説得力とプロフェッショナル感は劇的に高まります。この記事では、場面ごとの最適な言い換え候補から、微妙なニュアンスの違い、指示語に頼らずに文章をすっきり見せるライティングのコツまで詳しく解説します。

言い換え候補 主な使用シーン・ニュアンス
本(ほん)〇〇 話題にしているまさにその対象を指す(本件、本サービス)。ビジネス全般。
当(とう)〇〇 自分たちが所属・提供している対象を指す(当社、当サービス)。
同(どう)〇〇 直前に話題に出た第三者の対象を指す(同社、同氏)。
こちらの 目の前にあるもの、または自分側のものを丁寧に指す。接客・会話向け。
上記の・前述の 文章中で、すでに書いた事柄を指す。論文、レポート、固いビジネス文書向け。

「この」の言い換え表現を一覧で紹介

まずは、すぐに使える「この」の言い換え候補を目的別に確認しましょう。指示語を別の言葉に置き換える際、もっとも重要なのは「誰の」「何を」指しているかを明確にすることです。

まず使える代表的な言い換え候補

結論から言うと、ビジネスやフォーマルな場面で「この〇〇」を言い換えたい場合、接頭辞(言葉の頭につく文字)を活用するのが一番の近道です。

  • 本(ほん):話題に上っているその物事。(本件、本契約、本記事)
  • 当(とう):自分たち側の物事。(当店、当社、当プロジェクト)
  • 同(どう):直前に登場した第三者の物事。(同社、同氏、同製品)
  • 貴(き):相手側の物事。(貴社、貴店、貴殿)
  • 弊(へい):自分たち側をへりくだる。(弊社、弊店)

これらの接頭辞を名詞にくっつけるだけで、「この件」「この会社」といった曖昧な表現が、一瞬で引き締まったビジネス用語に変わります。

ニュアンスと対象別の言い換え早見表

「この」は指し示す範囲が広いため、状況に応じた使い分けが必要です。対象がどこにあるのかによって、選ぶべき言葉が変わります。

指し示す対象 言い換え候補 適したシーン
話題にしている事柄 本(ほん)、当該(とうがい) 企画書、契約書、ビジネスメール
自分側・身内の事柄 当(とう)、弊(へい)、私ども 対外的な案内、自己紹介、謝罪
相手側の事柄 貴(き)、そちらの 営業メール、商談、接客
第三者の事柄 同(どう)、右(みぎ)の ニュース記事、報告書
文章内の前の事柄 上記の、前述の、既述の レポート、論文、マニュアル
物理的に目の前にある物 こちらの、手元の プレゼンテーション、店舗での接客

「この」の言い換えを選ぶポイント

「この」を言い換える際、ただ意味が似ている漢字を当てはめれば良いわけではありません。相手との関係性や、媒体の特性を意識して言葉を選ぶ必要があります。

対象が自分側か相手側かで使い分ける

もっとも注意が必要なのは、「本(ほん)」と「当(とう)」の違いです。これらは日常業務で頻繁に使われますが、正しく使い分けられていないケースが散見されます。

「本サービス」と言った場合、それは「(今話題にしている)そのサービス」という意味です。自社サービスであっても他社サービスであっても使えます。
一方、「当サービス」と言った場合、それは明確に「(私たち自身の)サービス」という意味になります。

顧客に対して自社の案内を送る際、「このサービスは〜」と書くよりも「当サービスは〜」と書く方が、提供者としての当事者意識と責任感が伝わります。対象が誰のものなのかを見極めることが、正しい言い換えの第一歩です。

媒体やフォーマル度合いに合わせる

言葉の硬さを、媒体の空気に合わせることも重要です。

親しい取引先とのチャットで「当該事案につきましては」と書くと、大げさで堅苦しい印象を与えます。この場合は「本件については」や「こちらの件ですが」程度に留めるのが自然です。
逆に、法的効力を持つ契約書や厳格な論文で「こちらの結果から」と書くと、客観性に欠ける印象になります。「前述のデータより」「本調査の結果から」と、感情を交えない硬質な言葉を選びましょう。

シーン別「この」の言い換えと例文

ここからは、具体的なシチュエーションごとに「この」の言い換え候補と例文を紹介します。文脈に合わせた言葉の選び方を掴んでください。

ビジネスメールや文書での言い換え

ビジネス文書では、簡潔さと正確さが命です。「この」という曖昧な指示語を、接頭辞を用いた熟語に変換することで、文字数を減らしつつ意味を明確にできます。

言い換え候補 例文
本件(ほんけん) 本件につきましては、明日改めてご報告いたします。(=この件については)
本製品(ほんせいひん) 本製品の仕様変更に関するお知らせをお送りします。(=この製品の)
当社(とうしゃ) 当社のセキュリティ方針に基づき、対応いたします。(=この会社(自社)の)
同社(どうしゃ) 株式会社Aと提携し、同社のシステムを導入します。(=この会社(A社)の)
当該(とうがい) 当該期間中のデータに一部欠損が見られました。(=この期間中の)

「当該(とうがい)」は、「まさにその該当する〜」という意味で、契約書や規約、障害報告などのフォーマルな文書でよく使われます。日常的なメールで使うと少し硬すぎるため、「本件」「本期間」などに調整しましょう。

レポートや論文で客観性を示す言い換え

客観的な事実を述べる論文やレポートでは、指示語が引き起こす解釈のブレを徹底的に排除しなければなりません。「この」が何を指しているのか、読者が迷う余地を残してはいけません。

言い換え候補 例文
上記の 上記の調査結果から、仮説が立証されたと言える。(=この調査結果から)
前述の 前述の通り、Aの要素がBに与える影響は大きい。(=このように)
本研究 本研究の目的は、従来の手法の課題を解決することである。(=この研究の)
右の 右の表に示す通り、推移は減少傾向にある。(=この表に)

横書きの文書では「上記の」、縦書きの文書では「右の」を使います。論文では「このデータ」と書くのを避け、「表1のデータ」や「前述のアンケート結果」など、具体的な固有名詞で指し示すのが鉄則です。

接客やプレゼンでの丁寧な言い換え

口頭で説明を行うプレゼンや、対面での接客では、聞き手に心地よい柔らかい表現が好まれます。「本(ほん)」や「当(とう)」は音で聞くと少し堅苦しいため、「こちら」を活用します。

言い換え候補 例文
こちらの こちらの資料の3ページをご覧ください。(=この資料の)
手元の お手元の配布資料に詳細を記載しております。(=この資料に)
私ども 私どものサービスは、多くのお客様に支持されています。(=このサービスは)
只今の 只今のご質問にお答えいたします。(=このご質問に)

「こちらの」は、物理的に目の前にあるものを指し示す際に非常に便利で、かつ丁寧な印象を与えます。ただし、「こちらの件ですが」「こちらの商品が」「こちらのボタンを」と連続して使うと、やはり単調になるため注意が必要です。

「この〇〇」の具体的な言い換えバリエーション

よく使われる「この+名詞」のフレーズについて、より自然で洗練された言い換えバリエーションを紹介します。

「この件」「この度」の言い換え

連絡の切り出しで非常によく使う表現です。

  • 「この件」の言い換え:本件、こちらの件、上記について、先般の件、既報の件
  • 「この度(たび)」の言い換え:今回、今般(こんぱん)、このたび(平仮名にするだけで柔らかくなる)

「今般(こんぱん)」は「このたび」の改まった表現で、公式な挨拶状やお詫び状などで使われます。

「この人」「この会社」の言い換え

人を指す言葉は、敬意の度合いを間違えると失礼にあたるため慎重に選びます。

  • 「この人」の言い換え:こちらの方、同氏(どうし)、本人
  • 「この会社」の言い換え:貴社・御社(相手)、当社・弊社(自分)、同社(第三者)
  • 「このお店」の言い換え:貴店・御店(相手)、当店・弊店(自分)、同店(第三者)

ビジネスメールで相手の会社を指すときは「貴社(きしゃ)」、会話で指すときは「御社(おんしゃ)」を使います。自社をへりくだる場合は「弊社」、単に自分側の組織として述べる場合は「当社」です。

「このような」「このくらい」の言い換え

程度や状態を示す指示語も、文脈に合わせて言い換え可能です。

  • 「このような」の言い換え:こうした、かかる(かかる事態)、左記のような、上記のごとき
  • 「このくらい」の言い換え:これほど、こればかりの、程度の
  • 「このまま」の言い換え:現状のまま、据え置きで、現行通り
  • 「この頃」の言い換え:昨今(さっこん)、近頃、現在、近年

「この」を多用しないための文章テクニック

ここまで「この」の言い換え表現を紹介してきましたが、実はプロのライターが文章を書く際、もっとも意識しているのは「指示語の言い換え」ではなく「指示語そのものの削除」です。

「この」「その」「本」「同」といった指示語が文中に溢れると、読者は「それは何を指しているんだっけ?」と、無意識のうちに脳内でパズルを解かされることになります。この負担を取り除くための、2つの実践的なテクニックを紹介します。

指示語を具体的な名詞に置き換える

指示語を別の指示語(類語)に言い換えるのではなく、指し示している中身そのもの(具体的な名詞)を書いてしまうのが一番の解決策です。

  1. 悪い例:システムのアップデートが完了しました。この件について、明日報告します。
  2. 良い例:システムのアップデートが完了しました。更新後の状況について、明日報告します。

「この件」を「本件」に言い換えても、指示語であることに変わりはありません。しかし、「更新後の状況」と具体的に書くことで、読者は迷いなく意味を理解できます。少し文字数は増えますが、伝達の正確さは格段に上がります。

文脈や接続詞で自然に繋ぐ

そもそも指示語を使わなくても、文脈の論理構造だけで意味が通じるケースは多々あります。

  1. 悪い例:売上が低下しています。この原因は、競合の価格改定です。
  2. 良い例:売上が低下しています。原因は、競合の価格改定です。

「この」を削っても、まったく意味は通じます。「売上が低下している。原因は〜」と続けば、誰が読んでも「売上低下の原因」だと分かります。不要な指示語は、思い切って削ぎ落とす。これが文章をすっきりと洗練させる最大のコツです。

「この」の言い換えに関するよくある質問

指示語の言い換えについて、よく生じる疑問とその回答をまとめました。

「本」と「当」はどう使い分ければいいですか?

「本(ほん)」は、いま話題にしているその物事を指します(自他の区別なし)。「当(とう)」は、自分たちが所属・提供している身内の物事を指します。例えば、他社の製品について言及するときは「本製品」と言えますが、「当製品」とは言えません。自社の製品であれば、どちらを使っても間違いではありませんが、自社のものであることを強調したいなら「当製品」が適しています。

論文で「この」を使ってもいいですか?

極力避けるべきです。論文やレポートでは客観性と正確性が求められます。「この結果から」と書くと、直前の文を指しているのか、段落全体を指しているのかが曖昧になります。「表2の結果から」「前述の実験Aのデータより」など、具体的な対象を明記しましょう。

「この件」をビジネスメールで丁寧に言うには?

「本件(ほんけん)」とするのが最も一般的で無難です。より丁寧で柔らかい印象にしたい場合は「こちらの件」や「先ほど申し上げた件」などと言い換えます。相手に何かをお願いする場合は、「本件につきまして、ご検討のほど〜」と繋げると自然です。

「この度」は別の言葉に言い換えられますか?

はい。改まったビジネス文書や挨拶状であれば「今般(こんぱん)」が適しています。また、「今回」と言い換えることも可能です。お詫びや感謝を伝える場面で「この度」をそのまま使いたい場合は、「このたび」と平仮名で表記すると、視覚的に柔らかく丁寧な印象になります。

文章を書いていて「この」が多くなってしまう場合の対処法は?

まずは、その「この」を削除しても意味が通じるか確認してください。多くの場合、削っても問題なく通じます。削ると意味がわからなくなる場合は、「本件」などの別の指示語に置き換えるのではなく、指し示している具体的な名詞(例:「この機能」→「新機能」)に書き換えることをお勧めします。

「この」の言い換えまとめ

「この」という便利な言葉は、つい多用してしまいがちですが、場面や対象に合わせて的確に言い換えることで、文章のプロフェッショナル感は大きく向上します。

  • 話題の事柄:本件、本サービス、当該
  • 自分側の事柄:当社、当店、私ども
  • 相手側の事柄:貴社、そちらの
  • 文章内の事柄:上記の、前述の
  • 対面・会話:こちらの、お手元の

そして、最も美しく分かりやすい文章とは、指示語に頼らなくても文脈がスムーズに流れる文章です。「この」を言い換えようと迷ったときは、「そもそもこの言葉を削除できないか?」「具体的な名詞に置き換えられないか?」と問い直してみてください。その一手間が、読み手にとって最高のおもてなしとなります。